YURTAO - Interview

September 28, 2025

YUTRAOは、デザイナーの木下桃子によって2008年に生まれたアパレルレーベル。鎌倉を拠点にオリジナルの生地をデザインし、着る人に長く寄り添う洋服を手がけています。

旅がインスピレーションという木下は、当初、少数民族の衣装が好きで影響を受けていましたが、長年の活動でモノづくりに対する変化も出てきたようです。今回は、YURTAOの成り立ちや、作品に対する想い、そして今後などについて訊いてみました。

Model : 水村里奈 / Photo : 小禄慎一郎

 

活動はいつ頃始めたのでしょうか?

2008年ごろです。2006年に多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイル専攻を卒業してから、1年半ほどの間、旅行へ行ったりアルバイトをしたり、映像関係をはじめとしたクリエイティブな現場において衣装デザイナーの仕事など...ふらふらとしていました。

もともと布に関わる仕事がしたいとは思っていて、色々と方向性を探っていた時期でもあったかもしれません。

衣装デザイナーの仕事だと、制作のスピードも消費されるスピードも早いので、しだいに「長く使われるもの」が作りたいと思うようになり、自分のペースやこだわりで服を作れるよう『YURTAO』を立ち上げました。

 

YURTAOの意味は?

そこまで深い意味があるわけではないけれど、「YURT(ユルト)」というのが中央アジアの遊牧民の移動可能なテントのこと、「TAO(タオ)」は中国語で道や桃などの意味を持つ響きです。それらを合わせて「YURTAO(ユルタオ)」にしました。

以前より少数民族の民族衣装に深い関心があり、多数の少数民族が存在する中国の雲南省には度々訪れていますし、シルクロードが通る国なども旅をしました。

そこで見た「YURT(ユルト)」は、外側が白・黒などシンプルな色味ですが、内側は派手な色や柄が施された布になっており、とても綺麗だったのでインスピレーションをもらいました。



未だにインスピレーションは民族衣装などからきているのでしょうか? アウトプットにおいて意識していることなどはありますか?

「YURTAO」を立ち上げてからもう15年ほどになります。今も民族衣装っぽいテイストは好きだし、とにかく「美しい生地を作りたい」という想いは変わらないけれど、その表現方法は変化していると感じます。

最初の1、2年は自分で描いた絵を元に、派手でカラフルな柄をデザインして、シルクスクリーンによるプリントで生地を作ることが多かったです。その後、機屋(はたや)さんと知り合い、ジャガード生地が作れるようになってからは柄のプリントではなく、染めたり、生地そのものを楽しめるようなデザインになっていきました。

なので、その時々で自分が好きなテイストも取り入れつつ、あまり一過性のものにならないように意識しています。「今は、この形が流行っている」とか、「時代遅れだ」とかは気にせず。

でも、やはりデザインで行き詰まった時は、未だに民族衣装の写真集とかを見返して参考にしています。


旅をよくされていて、そこからのインスピレーションも多いようですが、それはどのようなものですか?

旅している時は、仕事と旅はあまり絡めたくないです。旅をしている時はものすごく自由を感じている、それがすごく大事。そこで得た心の栄養を日常生活で糧にしてるところがあります。

「インド(など海外)で、ものづくりしないんですか?」と言われたこともありますが、一個人として異国にいるということが重要だと捕らえています。

日本にはない色彩は(海外に)すごくたくさんあるから、それが、ダイレクトにではなくても、服を作るときの要素として反映されていたら良いと思っています。


服作りで拘っているポイントはどこですか?

民族衣装もナチュラルな服も好きだけど完全な自然派ではなく、都会に生きる人たちもギリ着れる服...みたいな(笑)。「 日常をこなすだけの機能じゃなく、スペシャルなもの。でも突飛すぎない」というバランスを大切にしています。

会社員の人などが買ってくれることも多いので社会性も必要だけれど、自分のために着る服として気分を盛り上げるような、非日常っぽさも演出したいと思っています。

また、服に求めることは年齢によって変わってくることも実感しています。今は、着心地の良さや、ストレスがないことを意識するようになりました。服作りを色々やってきた中で着心地を良くすることもうまくなってきましたし、デザインも前より派手ではなく、落ち着いてきた感じがします。


生地やディテールについてはいかがですか?

「オリジナルの生地であること」はブランドの根幹だと思っています。機屋(はたや)さんに並んでいるたくさんの生地の中からイメージに近いものを探し、なぜそれが好きなのかを深掘りして得たインスピレーションから、オリジナルの生地を作り上げることが多いです。

また、生地には天然素材を使うのもこだわりです。天然素材は経年変化を「良い感じ」に楽しめるのが魅力です。とは言え、先ほど述べたような「自然派に寄りすぎないバランス感覚」として、紐などの部分的な箇所に、ラメ糸や蛍光素材などの化学繊維をワンポイントで使用していたりします。

あとは、手作業の部分も大切にしていて、タッセルなどを自分で縫いつけたり、大量生産や工場ではできないようなものを意識しています。

染めに関しては、藍染や植物染などの技法を採用しています。藍染は友人が職人をやっていて、色落ちがしにくく美しく仕上げてくれるので、染めの良さを好んでくださるお客様も一定数いらっしゃいます。

YURTAOはファッションですか? それとも何か定義をするとすれば、それは何でしょうか?

アートや手工芸(クラフト)という認識ではないし、一般的なファッションにしては発表回数も少ない。もっと一つ一つを長く、大事にしたいのでそのサイクルにYURTAOが合わせる必要もないと思っています。

そういう意味では「クラフト」に限りなく近い「ファッション」になっていると思います。


実際にお客さんからもらって印象的だった感想やエピソードがあれば教えてください。

「着ている人を見たらYURTAOの服だとすぐわかる」や「着ていると褒められる」というお声は良く頂きます。世の中にある服と、そんなに何かがかけ離れているわけではないけれど、素材にしっかり拘っているからこそ、YURTAOならではの雰囲気を演出できているのではないかと思います。

デザインや形など、洋服には複合要素がたくさんありますが、特に生地が生み出す空気感は強いと感じています。


今回の新作(または展示)のテーマについて教えてください。

今までは、1年に1回、新しい生地で新作を発表していましたが、すごく大切に作った生地を、たった一年で売り切ってしまうのはもったいないと感じるようになりました。そのため、今回は新しい生地はありませんが、初期のころに作ったもので反響があった生地を復刻させるということをしました。

また、麻をコットンに変えるなど、今の自分の気持ちに合うようにアレンジを加えて、シンプルで軽めのデザインのものを作ってみました。

今後、特に取り組んでいきたいことはなんですか?

生地をもっと大事にしていきたいし、定番アイテムが増えてきたので、それらのおすすめポイントや実績があるアイテムをもっと丁寧に伝えていきたいです。


お手入れの方法や、長く楽しんでもらうためのコツがあれば教えてください。

基本的に全ての商品は、ご自宅でお洗濯が可能です。手洗いか、それが面倒であれば、服を裏返してネットに入れて洗濯機の「ソフト洗濯」でもOKです。長く着て欲しいからこそ、お手入れのしやすい丈夫な作りにすることは意識しています。


YURTAOの服をまだ着たことのない人へ、伝えたいことがあればお願いします。

私には似合わないのでは、と先入観を持たれていることがあるのですが、着ると馴染む部分が必ずあると思うので、まずは気軽に試着をしてみて欲しいです。

アトリエで作っているメリットとして丈や身幅を調整して作ることも可能です。是非、一度お試しいただき、ご相談くださると嬉しいです。

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YURTAO 2026 collection TEXTILE DANCE/ Oct 10 - 14, 2025

2025/10/10(金) - 10/14(火)
11:00-19:00

展示詳細はこちら

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