波津あゆ子 - Interview

March 18, 2026

波津あゆ子は、色彩豊かな布や刺繍糸を使い、ひとや動物を作る人形作家。

『絵本の世界から飛び出した』をテーマに、様々な時代、様々な国の生地を用い、エキゾチックな作品を作っています。ドラマ「僕の姉ちゃん」(テレビ東京 2022年放送)オープニングの人形製作をするなど、幅広く活動中。

今回は、4月18日より開催されるJohnでは5度目となる個展を前に、人形作家としてのこれまでの歩みとこれからについて話を伺いました。

 

いつごろから、どんなきっかけでぬいぐるみや人形作りを始めたのですか?

ぬいぐるみを一番最初に作ったのは小学生の時です。小さい頃からぬいぐるみという存在が好きだったので、フェルトでマスコットを作ったりしていました。ある時、友達の家で見かけたピエロの人形が面白いつくりをしていて、それにインスピレーションを受けて自分なりに作り始めたのがきっかけです。同じものを繰り返し作って上達したいという気持ちが昔からあったので、そのピエロの人形を大量に作りました。
大学生になると、母が持っていたミシンで服を作るようになったこともあり、もともと持っていた人形の作り方の本を参考にして本格的に作り始めましたね。

波津さんは、ぬいぐるみという存在をどのように捉えていますか?

「物」と「生き物」の中間にある存在と捉えています。
昔から、自分がいないところでぬいぐるみは生きてるんじゃないか、と思っていました。

人間は顔があると、そこに命や魂があるのではと錯覚してしまうところがあると思います。
だからこそ、無下にできない感じが生物的なものを感じさせる。でも絶対に生き物ではない。そういう不思議な感情を抱かせる存在ですね。作っている時も、目が入るまでは命がない感覚がありますが、黒目が入った瞬間に性格が見えてきます。この子は性格悪そうとか、素直そうとか...。その時に、自分にとって「物」以上の存在になります。


 ぬいぐるみにパーソナリティを感じる瞬間はありますか?

作っている中で、目がついて顔ができた時に、目つきや表情から「この子はこういう子だな」と自然に感じます。自分の中では「可愛くできなかったかも」と思っても、そういう子から先に売れていったりもするんです。だから、どんな子ができても安心だなと思います。自分だけで善し悪しを決めないようにしています。

 

ぬいぐるみが完成するまでの流れを教えてください。

パターン作りから始めます。定番の型もありますが、新しいモチーフを作るときは製図を何度も引いて、試作の布で繰り返し形を確認します。今はチャームも作っているので、チェーンの位置や体のバランスを見るためにも、まずは試し布で作ってみます。
形が決まったら、「主人公になる布」を選びます。現在は強度を出すために、どの布地にも生成りのコットンで裏打ちをして、二重構造にしています。裁断したらミシンで縫製。ひっくり返して綿を詰め、それから顔などの刺繍をします。
洋服を着せる場合は、顔、体が全て出来たら、その子に似合うものを作ります。裸の状態でパンツや上着を考えますが、出来上がってみたら似合わないこともあり、そういう時は別の子に着せたり、ボツにする場合もあります。

素敵な柄や素材の生地、刺繍との組み合わせが魅力的なぬいぐるみたちを作られていますが、創作の上で根底にあるこだわりを教えてください。

ぬいぐるみ作りの中では、「布が主人公である」と捉えています。
ぬいぐるみにした時に魅力的に見え、かつ、質のいい布というのが第一条件です。

安い布ばかりを並べるのもどこか違うし、高級であればいいかというとそうでもない。例えば、チープな布が高級な布に紛れていると独特の魅力を持ってくれることがあったりもする。たくさんぬいぐるみを作っていく中で、適した布を選ぶ目が養われていった感覚があります。

その中でも、時代や時期によって選ぶテキスタイルのタイプは変わってきていますが、その都度一番ワクワクする布を手に取るようにしています。最近入手したのは、アルパカとウールと麻と綿の混合のような生地でした。やはり天然素材は良いなと感じます。その布自体に物語があるような布をこだわって選ぶと、お客様にもそのパワーが作品を通して伝わると感じています。昨年(2025年)、テキスタイルのイベントに参加させてもらった際に、テキスタイル業界の方々が私の使っている布が珍しくて面白いと言ってくださったのがすごく嬉しかったです。

また、色の組み合わせというのも私の中でこだわっている部分です。
美術展でみる作品、空や緑などの何気なく眺める日常の色のコントラストなどが、今の私にとってとても大切なインスピレーションになっています。

波津さんの感性のルーツはどこにあると思いますか?

私が好きなのは、メキシコの配色なんです。
小さい頃に何度かメキシコに旅行に行ったり、父がお土産でメキシコグッズを色々と買ってきてくれていて、その頃からメキシコの色に惹かれていました。今でもメキシコの旅行雑誌などを見たりして、配色を参考にすることもあります。

一昨年(2024年)購入したメキシコの焼き物で、人魚モチーフのろうそく立てがあるのですが...人魚に花がついているし、マンドリンも持っていて、しかも尻尾が「黄色と青」という、すごく奇抜なデザインだけどとても可愛い。人の目を気にせず、やりたいようにやっているのにまとまっている感じがとても好きです。日本にも日本のいい配色がありますが、メキシコの配色には、より「自由さ」を感じますね。

また、日本人の塔本シスコさんというアーティストにも影響を受けています。
美術教育を受けた訳ではなく、息子さんが持っていた画材でひたすらに絵を描き続けていた方で、心から湧き出るものが描かれた作品のエネルギーに惹かれるものがあります。

やはり、プリミティブさを感じるものが好きですね。

 

波津さんの作品を手に取ってくれる人はどのような方々ですか?

私の作品を買ってくださるお客様は、しっかりと人生を楽しもうとしている方が多いと感じます。普段から、楽しくのびのび生きているようなぬいぐるみを作りたいと思っているので、我が道を行くような性格の子が作れるとすごく嬉しいです。私の作る自由な雰囲気の作品を手に取ってくださる方は、どこか包容力がある方が多くて、魅力的で素敵な方ばかりです。


お客様から伺ったエピソードで印象に残っていることなどはありますか?

たまに過去に作品を買っていただいた方から修理の依頼を受けますが、その時に伺うエピソードは印象的ですね。

ある方が修理に持ってきたぬいぐるみは腕がとれかかっていて、どうしてこんな状態になったのか伺うと「一緒に世界中を旅していた」と言われたんです。修理ではありましたが、すごく嬉しいエピソードでしたね。
また、5年ほど前に、まだ赤ちゃんだったお子さんのために猫のぬいぐるみを買ってくださった方がいて、その子がぬいぐるみを大事に遊びつくしてボロボロになり、修理を依頼されました。毛玉をとって、腕を付け直して...完璧には元に戻らないけれど、元に戻らない方がむしろいいなと感じました。

修理に出していただくぬいぐるみ達は、人生の酸いも甘いもわかってきたような顔をして帰ってくるのですが、そういう時に「大事にされて良かったね」と、なんだか羨ましい気持ちになります。(笑)

 

ぬいぐるみを生活に迎えることは、どんな体験であると考えていますか?

迎えてくださった方にとってぬいぐるみが、一定期間何かの役割をもっていると思っていて。もちろん心を癒すためであったり、可愛いインテリアとして迎えられる場合もあります。そしていつか、その役割が終わることもあるかもしれない。

私も小さい時に大事にしていたぬいぐるみを処分することがありました。
ぬいぐるみには「生き物」と「もの」の間というイメージがありつつも、全ての「もの」と同じように、あくまでも買ってくださったその方の人生が主役であると思っています。
ぬいぐるみとの決別も、その方が幸せになるステップになれば良いと感じています。


手に取ってくれた人に、ぬいぐるみとどのように過ごしてもらいたいですか?

私のぬいぐるみが、皆さんの日常の中で、ワクワクやリラックスや愛着を生む存在になれたら良いなと思っています。

昨年(2025年)、私自身すごく久々にぬいぐるみを買ったんです。ドイツのくまのぬいぐるみなのですが、その子を朝、仕事場にもってきて座らせておくととても和みます。
あとは、朝ごはん用にと買ったデンマーク製のお皿があるんですが、そのお皿で朝ごはんを食べる度にワクワクするんです。

こういう感覚がすごく良いなと思っていて、私のぬいぐるみも、手に取ってくれた人の気持ちが和むような存在であったら本当に嬉しいです。

これからぬいぐるみを手にとってくれる方に向けて、お手入れの方法にコツがあれば教えてください。

アパレル素材を使うことが多いので、普段のお洋服の手入れと似ています。汚れがついてしまった場合は、濡らして固く絞った布地でトントン叩くように拭き取ってください。
全体的に洗いたい場合は、起毛素材(フェイクファー)と色落ちしがちなインド綿以外でしたら、優しく揉み洗いも可能です。
ご不安があれば、クリーニング屋さんに相談いただくと安心です。

 

これまでに印象的だったお仕事やエピソードはありますか?

「僕の姉ちゃん」というドラマのオープニングに登場する人形を作る仕事が印象的でした。
普段の制作では、自分の作りたいものを自分の判断で進めていきますが、こういった仕事では細かな依頼が書かれた資料に沿って作っていきます。そのような制作もとても面白いと感じます。このような依頼では、最終的に人形に着せる洋服は、実際に対象の方が着ているものをミニチュアにして作るんですね。「僕の姉ちゃん」の時は、黒木華さんがきている衣装の写真を送っていただいたのでそれに寄せて作りました。

相手から求められる「何か」があるとすごく燃えるところがあるので、個展などの機会でいらしてくださるお客様にも、「こういうの作ってみたら?」「こういうものが欲しいな」と言われるとワクワクします。

また、亡くなったご両親やパートナーの遺影代わりに人形を作ったことがあり、すごく心に残っています。とても大きな責任を感じつつ、その人にとってとても大切なことを頼んでいただいた事実をありがたく感じます。

 

今後つくっていきたいモチーフや、取り入れてみたい素材や技法などはありますか?

今後、個展等でも取り組んでみたいと思っているのが、例えば猫やネズミや狐などが洋服を着ているぬいぐるみ。つまり、動物を擬人化したぬいぐるみを少しずつ展開していきたいなと思っています。

 

4月にJohnで開催する個展に向けて制作する作品に関して、何かこだわりやテーマがありましたら教えてください。

今回は日本製の布生地で作った作品が多い展示になりそうです。
というのも、最近は愛知県一宮市の「尾州織」に取り憑かれていて、その織物を扱っているお店を訪れたら素晴らしい布がたくさんありました。日本製の布は深みがあり、引き寄せられるような感覚を抱きます。触れば触るほど引き込まれるのが日本製の布の魅力です。

今回の展示でも、つい抱きしめたくなるようなもの、質のいいものを作りたいです。

 

展示に訪れる人に伝えたいメッセージがございましたらお願いします。

ぜひ、抱っこしてください。
抱き心地は布によって違いますし、重さもそれぞれ違う。触ってみないとフィットする子が分かりづらいのではないかと思います。できるだけ手に取って触っていただくと、よりその子の「存在」をリアルに感じられると思いますので、ぜひ、そうしてもらえると嬉しいです。

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波津あゆ子 個展 2026 / Apr 18 - 26, 2026

2026/ 4/18() - 4/ 26(
11:00-19:00

展示詳細はこちら

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