エヴァンズ高田寛子 - Interview

November 30, 2025

エヴァンズ高田寛子は、「たおやか」をテーマに、力強さと柔らかさを併せもつ器をつくる陶芸作家。鎌倉を拠点に“Deep Gorge”として活動してきましたが、2025年より北軽井沢へ工房を移し、新たな環境で制作を続けています。

米国での幼少期を背景にもつ彼女の作品は、無国籍な魅力をもち、日常に寄り添うような佇まいが特徴です。

今回は、工房の移転を経て、再始動した彼女の歩みについて話を伺いました。

 

陶芸を始めたのはいつ頃ですか?また、これまでの活動についてお伺いできればと思います。

陶芸を本格的に学び始めたのは 2014年、いずみ陶芸学院に入学した時でした。その前に、1年ほど教室のような場所で軽く触ったことはありましたが、ほぼ完全な初心者でしたね。学院には2年ほど通い、卒業間際の2016年に鎌倉の賃貸物件を借りて窯を置いたのが最初の工房です。

その後、個人作家として本格的に活動を始めたのが2019年でした。
そのタイミングで “ Deep Gorge ”(ディープゴージ)という屋号をつけました。名前の由来は、私が小学生の頃アメリカで住んでいた通りの名前から取っています。自分のルーツにある言葉を使うことで、自然とオリジナリティが生まれる気がしたんだと思います。

 

制作するときのこだわりや哲学はありますか?

まずは「実用性」。そして「多用途」であること。

美術品というより、日常で使える器をつくりたいと思っています。和食にも洋食にも合わせやすく、気づけばいつも手に取ってしまう器ってあると思うのですが、そんな存在を目指しています。
デザイン面では「無国籍さ」を大切にしています。焦げ茶と黄色のパターンの皿を作ることが多いのですが、見る人によって「和食器みたい」「ネイティブアメリカンっぽい」「アジアっぽい」「アフリカみたい」と感じ方が違うんです。その「余白」が面白いと思っています。使う人によって完成するデザイン、という感覚です。


 2025年より新工房をオープンさせた高田さんですが、工房を鎌倉から北軽井沢へ移された経緯を教えてください 。

2016年に借りた鎌倉の家は、一人で暮らして陶芸するには十分な広さだったのですが、2022年に結婚して二人暮らしになると手狭になってしまって。加えて、あの広さでは制作量や工程に限界があることも感じていました。
ただ、鎌倉周辺は地価が高くて工房を広げるのが難しい。横須賀なども検討しながら、気づけば3年ほど転居先を探していたんです。

最終的に北軽井沢を選んだ大きな理由は、地価の安さに加えて「自然が開発されすぎていない環境」でした。
最初は工房の場所がなかなか決まらなかったのですが、昨年ようやく決まり、今年から本格的に動き始めました。実に足掛け4年の移転でしたね。

 

新しい環境での生活はどうですか?

「山の中に住める」ということはやはり魅力的な部分で、自然が手つかずのまま残っていて、不便なところも多いけれど、それすらも楽しんで生活ができています。

そういった環境の変化によって作品にも影響があるかもしれませんが、自分自身ではまだはっきりと分からなくて。だからこそ、今回の個展で作品を見ていただくのが楽しみでもあり、怖くもありますね...!


新しい窯を導入したとのことで、その点では制作に変化はありますか?

鎌倉で使っていた窯に加えてもう一台入れたのですが、窯の癖がまだ掴みきれていない状態です。サイズが少し違うだけで焼け方に微妙な差が出るんですよね。

また、いつも釉薬を自作しているのですが釉薬原料の仕入れ先が変わり、同じ材料でも反応が違ってきています。

色味の濃淡のコントロールが思ったように行かなかったり、手触りにザラつきが出てしまったり、私からするとかなり大きな変化です。今はその変化を楽しみつつ、調整をしながら制作しているところです。


移転を機に、宿泊施設や陶芸体験など新規事業も始められた理由やその内容について伺えますか?

器は「使う人」や「使われる場所」があって初めて完成するものです。
だからこそ、器だけでなく、空間ごと表現してみたいと思うようになりました。
また、陶芸は工程がとても長いんです。乾燥 → 素焼き → 釉薬 → 本焼き…など、全部で1ヶ月ほどかかるのですが、「そのプロセスそのものを楽しんでいただける場所があれば面白いのでは?」と思ったのも、工房に宿泊施設を併設した理由のひとつです。

宿泊の部屋でも実際に器を使っていただけるので、料理を盛り付けて使い心地を体験してもらえるのは魅力だと思います。
空間作りでは、周囲が森なので、その自然を室内に取り込んで楽しめるようにすることや、空間の雰囲気と器の世界観が調和するように意識をしました。

 

移転前と移転後を比べて、ご自身の制作にどんな変化を感じていますか?

これまでの器をベースにしつつ、サイズのバリエーションを増やしてみたり、細かなアップデートをしています。また、以前は花器や壺などの大きい作品を一点物として制作していましたが、最近は小さなマグカップで一点物を作ってみたり...。これまでと理念は同じですが、オブジェのような作品や一点物をもっと自由に展開していくのも面白いなと思うようになりました。

基本は変えずに、多少の「遊び」を加えていく感覚です。


作陶を休んでいた時期から、何か心境の変化はありましたか?

実は、作陶を休止してから最初の1年くらいは、燃え尽きていたのかもしれませんが、器を作りたいという気持ちがあまり湧かなかったんです。
でも他の作家さんの作品を見て刺激を受けたりもしながら、「そろそろ作りたいな」と思い始めたタイミングで工房が整い、作陶を再開しました。

以前は追われるようにアクセルを踏んでいたけれど、今は制作に対して心と時間の余裕を持つように意識しています。その心のゆとりが、作品に出てくる「遊び」にも繋がっている気がします。

 

もうすぐ開催される個展は、どんな展示になりそうですか?

久々の個展になるので、まずは変わらず制作を続けている姿をしっかりと示すことができたら良いなと思っています。(笑)

発表する作品で言えば、一点もののマグカップは、ろくろを使わず手捻りでつくっていて、一つ一つ全く表情が違ってくるはずです。自分でもどう仕上がるか楽しみにしているので、ぜひご覧いただきたいです。


作家としての6年間、どんな進化を感じますか?

最初は「できることをやっているだけ」という感覚であったような気がします。
今はもっとこういうものを作りたい、という欲が出てきました。
でも自分の作品に対して、この作品いいなと心から思えたことはまだなくて…。陶芸の先生にそれを伝えたら「そんなもん俺にもねぇわ!」と言われて、安心しました(笑)。

焦りもあるけれど楽しさもある、そんな心境で続けています。


高田さんにとって「器を作る」とはどんな行為でしょうか?

子どものころ、プリントの端に落書きしていた時の感覚に似ています。
余計なものを削ぎ落として、一つのことに集中していられる時間。


器は作った時点では完成しないと思っていて、「どんなふうに使ってくれるのかな」と想像しながら作っています。
使ってくれる人によって表情が変わっていく。その「完成していく過程」も含めて、器の良さだと思っています。

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HIROKO TAKADA EVANS 個展 2025 / Dec 6 - 14, 2025

2025/ 12/6( ) - 12/ 14
11:00-19:00

展示詳細はこちら

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